ニーズDB:医師インタビュー
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山崎 健二 先生
東京女子医科大学病院
心臓血管外科准教授
心臓血管外科

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1.ご専門の分野について

専門は心臓血管外科である。主な疾患は成人の心臓血管外科である。重症心不全の治療などが現在の主な専門分野である。

冠動脈バイパス手術や心臓弁膜症の手術が多い。


2.ご専門分野に関わる既存の医療機器について

■この10年で、診療成績の向上や患者QOLの向上におおいに貢献したと考えられる医療機器

(1)診断
CTなどの診断機器の性能がこの10年間で劇的に向上した。診断機器の性能が向上することにより、侵襲的な診断から非侵襲的な診断へと移行する。
超音波検査は10年以上前から非常に有用な手段として利用されるようになった。

(2)治療
① 補助人工心臓
世界的にみると、重篤な心不全の治療方法として補助人工心臓が大きく進歩した。従来は大型で拍動型の装置(第1世代型)であったが、小型で植え込み可能な無拍動型の装置(第2世代型)の開発が進んだ。欧米ではすでに第2世代型の補助人工心臓が使用されている。日本では2005年5月より、我々のプロジェクトにおいて第2世代型補助人工心臓の臨床試験を開始した。
補助人工心臓の適用患者は重症度が最も高い患者(重症度分類4度)である。強心剤の持続点滴に依存した状態のため生命予後が非常に悪く、6ヶ月生存率が25~26%、1年生存率が約6%である。
補助人工心臓を装着すると、第1世代型では存率は1年生存率が52%、2年生存率が23%である。第2世代型はさらに約10%の改善が見られる。我々が行った臨床試験では補助人工心臓を装着した患者の2年生存率は70%以上となっている。
人工心臓は、心臓を完全に置換するタイプの装置と患者の心臓を残して補助するタイプの装置がある。現在は、弱った左心室を補助する「左室補助人工心臓」が主流である。左心室補助人工心臓のメリットは、薬剤療法等によって患者の心機能が回復すれば補助人工心臓を離脱できること、完全置換型の装置に比べて感染症に強いことである。米国において完全置換型の人工心臓が使用されたが、感染症の問題で成績は芳しくない。
② 両心室ペーシング
心不全の治療方法として両心室ペーシングが進歩した。両心室ペーシングは、ペースメーカーのようなもので、心不全の患者に対して同時に複数箇所をペーシングすることで同期のズレを修正する装置である。
③ バイパス手術用の機器
バイパス手術では、オフポンプバイパス手術 のための機器が進歩し、当該手術の普及に大きく貢献した。特にスタビライザーが貢献した。スタビライザーは心臓の拍動を止めることなく、術者からみて血管が静止した状態にするための機器である。
欧米での大規模研究により、輸血量の減少、集中治療室の滞在期間の短縮等の定量的なデータが得られている。
④ 弁の形成術(弁膜症に対する治療)
日本において、特に進展が見られた分野として、弁の形成術(弁膜症に対する治療)があげられる。ただし、弁の形成術では、特別な器具を使用することがないため、器具というよりもむしろ手術方法が進歩した。
⑤ 心不全の薬剤療法(βブロッカー)
薬剤療法については、この10年で、心不全の治療薬としてβブロッカーの有効性が確立され、臨床医に浸透した。βブロッカーは当初、降圧薬(心機能を抑制し、血圧を下げる)として開発されたもので、心不全の治療薬としては認識されていなかった。


■既存の医療機器の改良すべき点について

(1)補助人工心臓
① 「最終治療手段の資質をもつ装置」としての性能を備えた補助人工心臓
日本で用いる補助人工心臓には、「最終治療手段の資質をもつ装置」としての性能が求められる。欧米では補助人工心臓を移植までのブリッジとして使用するため、補助期間は平均3~4カ月である。一方、日本ではブリッジとして利用した場合でも補助期間が2年を超え、最終治療手段に近い適用になる。
心臓移植手術の件数は、米国の年間約2,000例に対し、日本では年間10例前後である。
② 改良の方向性は「3大合併症」の予防
補助人工心臓装置を装着した患者の死因は、「感染症」、「血栓塞栓症」、「装置の故障」という3大合併症である。これら3大合併症の発生を減少させるための改良が必要である。
「感染症」は、第一世代の補助人工心臓装置は、装置が大型であることから感染症で亡くなる患者の割合が最も高かった。第2世代型以降の補助人工心臓では感染症による死亡率は減少していると思われる。
「血栓塞栓症」は、補助人工心臓の宿命的な合併症である。血液が異物に触れて凝固すると血栓塞栓症を引き起こす可能性がある。このため、抗凝固療法が必要となるが出血等の合併症の問題がある。装置そのものの抗血栓性は飛躍的に高まったが、装置と心臓・心血管との接続部位の周辺の抗血栓性の向上が課題である。
「装置の故障」は、全体的にみると、第一世代型に比べ第二世代型では改善した。故障しやすさは機種に依存している。


3.実現が望まれる新規の医療機器について

(1)末期重症心不全患者が5~10年間生存できるようになる補助人工心臓
① 求められる機能
重篤な心不全の治療方法として、補助人工心臓による治療方法の確立が求められている。少なくとも、今後10年間で、末期重症心不全患者が補助人工心臓によって5~10年は生存でき、社会生活を送れるようにする必要があると考えている。
② インパクト
補助人工心臓装置の重要性は治療効果の大きさだけでなく、その潜在的な患者数の多さにある。世界の人口の3分の1は心臓関係の病気で死亡している。心臓移植は移植数が限られ、移植の適応年齢 が制限されている。一方、補助人工心臓装置は量産可能であり、手術も心臓以外の機能に問題がなければ70歳代の高齢患者でも耐えられる。治療方法が確立されれば、治療の適用患者数が増大することになるだろう。
③ 補助人工心臓を活用した治療法の確立
補助人工心臓を活用した治療法の確立も重要である。補助人工心臓が適用される患者は、死がすぐそこまで迫っているような重症な心不全の患者であるため、まずは補助人工心臓を装着して全身の血液循環を維持する必要がある。
その間に、薬剤療法と再生医療で心機能の再生を図り、心機能が回復すれば補助人工心臓を離脱する。移植ドナーが現れれば心臓移植を行い、補助人工心臓を離脱する。
薬剤療法と再生医療で心機能が回復せず移植ドナーも現れなかったときは、補助人工心臓が最終的な治療方法となる。

(2)再生医療(心血管、心筋)
心血管の再生は有望な分野である。血管新生は研究が進んでいる。
心筋の再生も有望ではあるが、細胞の導入時の患者負荷、細胞の生着率、収縮機能の発現などの問題があり、臨床的に有効な手段となるには時間を要する。

(3)その他
全く新しい医療機器ではないが、既存の機器の高性能化を進めることは必要である。


4.その他、医療機器の研究動向や今後の医療機器開発の方向性に対するご提言について

(1)治療機器の研究開発の促進
日本は国家として治療機器の研究開発を促進すべきである。治療機器は、世界的にみても非常に立ち遅れている。現在、日本で使用されている治療機器の多くが輸入品である。年間約5,000億円超の貿易赤字が生じている。
ようやく2年前に医療機器産業ビジョンが策定されたところである。
世界に通用する医療機器を開発すれば市場は一気に拡大する。医療機器で成功するためには後発製品を開発するのではなく、潜在的な患者数が多い分野で先行することが重要である。先行開発で実績をつくることがビジネスチャンスにつながる。

(2)治療機器の研究開発における事業リスクの考え方に関する国民的な議論
企業が治療機器の開発に取り組まない理由は、事業リスクが高く、そのリスクに見合う利益を得ることが難しいからである。
とくに、余命の少ない患者を対象とした医療機器の開発は事業リスクが高いと考えられ、開発が敬遠される傾向にある。この点は見直されるべきである。たとえば、余命予後がきわめて悪い疾患の患者の状況を考えてみると、医療機器を使用しても生存できない可能性は高いが、何もしなければ確実に死亡する。このような患者に事業リスクについては、消極的な視点での評価ではなく、少しでも生存可能性を高める医療機器を提供したという積極的な視点での評価なされるべきではないか。このあたりも国民的な議論が必要である。

(3)補助人工心臓による治療が確立されたときの適用方針に関する国民的議論
補助人工心臓による治療の5年生存率が向上し、この治療法が社会的に認知されるようになれば、多くの人が補助人工心臓を希望するようになるだろう。このとき、高額な補助人工心臓の適用の方針について国民的な議論が必要になるだろう。


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